2013年1月17日木曜日

テイスティングと鼠

テイスティング能力とは、明らかに経験がとても大事で、それによるところも大いにありますが、やっぱりどこか「才能」「感性」みたいなものも必要なのではないかと思います。
うちの店主と一緒にテイスティングしていると、そういうことをよく感じます。知識と経験からワインの基本部分の知るべきことを感じ取り、その他のことを個人的な感覚でも味わう。そして、全体像をつかみつつディテールも感知する。というか、ディテールから全体像が構築されるのかもしれませんが…。そういうことは多分本人は考えていなくて、いっぺんに把握するものなのでしょうけれどね。

でも、店主の味覚が絶対的に優れているというわけではなくて、やはり個人的な好みもありますし、テイスティングするときどきの体調やワインのコンディションにもよるので、必ずしもすべての人が同じように感じるわけではありません。そして、「正解」とはどういうものかは誰にもわからない、と思います。

養成講座に行っていたときは、テイスティングのときに、必ず「見た目」「香り」「味」「後口」と段階を追ってコメントするように教わりました。そして、コメントの割合が一番大きく割かれる「味」については、「酸味」「甘み」「アルコール度」「タンニン(赤ワインの場合)」のそれぞれについて分析しなければいけません。
実は私はコレがとーっても苦手でした。
とりあえず養成講座なので型が決まっていましたし、使う用語や表現はいわばコード化されていて、自分の個人的な感覚に従ってそうした言葉を使ってしまうと「それはネガティヴな意味になってよくない」とか「他の表現と矛盾する」と指摘されることもしばしば。フランス人でさえそうなので、ましてや外国人の私には細かいニュアンスまでわからないし…と、だいぶ頭を悩ませました。
また、普段、ものを味わうときというのは色々な要素をひとかたまりに感じるわけなので、分析して言葉で明確に表現しようと思えば、それぞれに感覚を集中しなければいけません。それも多分、経験を積むとぱっと判断できるようになるのだと思います。
授業中でのテイスティングではいつも悩みすぎてタイムオーバーになっていた私ですが、それでも今はだいぶわかるようになった気がします。

しかし、実際にワイン屋で働いてみたら、授業で教わったような専門的表現をほとんど使いません。だいたい、一般レベルのフランス人にとってクリアではない専門用語で話して、お客さんに伝わらないのでは意味がありません。
(結果、ワインを描写する語彙が増えない私です…。)

テイスティングにおける個人的な感性という部分でも、自分はまだまだこれから磨かなければいけないなあと思うのですが、他の人より敏感に感じ取れると自信のある部分があります。
それは「カビ」と「鼠」味です。
私はわりと鼻が利くほうなのですが、何より嫌なものについては敏感なのです。まあ、これは前々から気づいていたことなのですけれど…もっとポジティヴな方に敏感でありたかった…。

お店で、お客さんもまじえて何人かで試飲していると、たまにこの「カビ」や「鼠」味の欠点をもつワインがあるのですが、全員が感じるわけではないらしい。
店主はその辺もちゃんと感じ取る人なので、「私だけかな?私の思い違いかな?」と思っていたりしたところへ彼がそれを指摘したりすると、ついほっとして嬉しくなってしまいます。(ワインにとっては良くないことですが…。)

さて、「カビ」は、例えば「チーズの皮のような味」と言えばだいたい想像がつくと思いますが、「鼠」味は説明しがたいのです。
「鼠を食べたことあるの?」とよく聞かれますが、勿論ありません。
イメージとして、鼠のような清潔でない小動物の毛皮がワインに入り込んで変な味を加えた…という感じです。

「鼠」味は、抜栓後、時間が経ってから出てくることが多いです。私はわりと微妙でも「あ、これ、置いておくと鼠味が出てくるかも…」というのが察せられるのですが、その段階では感じない人にも二日目にははっきりわかるくらいに出てくることが多いのです。程度の差はありますが、大概は空気にふれて出てくるものなのでしょう。醸造中にどこかで混ざったバクテリアが原因なのかもしれません。でもそれを飲んだら病気になるというわけではなく、あくまでも味の問題です。これをあまり感じない人もいますし、鼠味が出てくる前に飲んでしまえば私も気になりません。

ちなみに、常連客のPはブショネ(コルク栓についたバクテリアとの反応でワインが劣化すること)にものすごい敏感で、鼻をつけただけですぐわかるそうです。そして、たとえ他の人が気にならない程度のブショネでも、彼は全く飲めないそうです。

私はブショネにはそれほど敏感ではありません。その点、プロとしてちょっと不安ですが、単に飲むのが好きな者としては気づかないでいられる方が幸せかなあー。
敏感だから苦手なのか、苦手だから敏感なのか…とにかく、人それぞれの感覚ってあるものなのですね。

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